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LIFECYCLING.

Interviews | File No.005

山本 祐布子江口 宏志 手仕事のぬくもりと健やかな風がながれる3人暮らし Yuko Yamamoto : Illustrator, Hiroshi Eguchi : Bookshop Owner / Setagaya, Tokyo / 2011.8.17

閑静な住宅街に佇む築40年のテラスハウスに暮らす、江口宏志さんと山本祐布子さん、愛娘のミトちゃんの3人家族。江口さんは青山にあるブックショップUTRECHT(ユトレヒト)のオーナーで、「THE TOKYO ART BOOK FAIR」のディレクションなど幅広い活躍をされている。一方の祐布子さんは気鋭のイラストレーターとして、切り絵やドローイングを中心に雑誌や広告、プロダクトなどジャンルを超えた活動を行っている。

江口さんと山本さんご夫婦の案内で、まずは各お部屋とお庭、そして書庫を見せていただいた。

家の中心にある祐布子さんのアトリエを兼ねたお部屋は、庭に向かって大きく開かれた窓から柔らかな陽の光と心地良い風が入る空間。海外での暮らしが長かったオーナーが帰国後に建てた家ということで、窓の作りや収納などオーナーのセンスの良さを感じさせるディテールが印象的だ。キッチンの床のタイルと一部ペンキを塗った以外は手を加えていないということだが、落ち着いたトーンの白い壁と扉や窓枠などに塗られたグレーとのバランスが良く、風合い豊かな家具や雑貨と調和している。食器棚として使用している木の棚や椅子などは、骨董市で購入したアンティークや江口さんのD.I.Yで作られたもので、ぬくもりのあるに空間よく馴染んでいる。バスルームにかけられたシャワーカーテンは、良いものが見つからなかったという理由で、祐布子さんが自作をしたそう。残った布でミトちゃんのワンピースもお揃いで仕立てという微笑ましいエピソードも。少しくすんだタイルと水玉のカーテンのコンビネーションは、まるで映画のワンシーンのような光景だ。

庭に出ると、そこには涼しげな木陰を作る大きな木が3本立っていて、これから少しずつハーブや花などを植えて手を加えていくそうだが、基本はあくまでも自然の成り行きにまかせるというガーデニングスタイルがこの建物の雰囲気によく合う。さらに庭の奥に回ると、江口さんが集めている膨大な本が収納された倉庫がある。幅6m、奥行80cmほどの横長の書庫には、足を踏み入れるのがやっとのほど床から天井までギッシリと本が収納されているが、江口さんはここで作業をすることもあるそうだ。家の中にある本棚がディスプレイされた本だとしたら、ここにあるのは人目を気にせず並べられる愛おしい本や資料の数々。コレクションしている世界各国のペーパーバックやヴィジュアルブックが大切に保管されている。
こうしてこの気持ちの良い家を一周した後、庭の緑を眺めながら江口さん、祐布子さんのお二人に、暮らしのこと、多岐にわたる仕事や活動についてお話を伺った。またブックショップオーナーの江口さんならではの、暮らしのアイディアやヒントが詰まったおすすめの書籍も紹介していただいた。

いつこちらに引越しをされたのですか?

祐布子さん)5月31日に引越してきました。そんなに必死に探していたわけではなくて、良い所があったらという話しをしていたくらい。最初は引っ越すならビル1棟を借りた方が良いんじゃないかとか、物件を買おうかとか話をしていたのだけれど、震災があって住み方に対する考えを見直して、そしてなんとなく偶然見つけたのがこの物件だったんです。

引越しの決め手は?

祐布子さん)散歩がてら見に来たのですが、お庭と部屋の中の様子、そして駅から自宅までの落ち着いた雰囲気が1発で気に入ってしまって、即決しました。そこから急ピッチに計画を進めました。だから周りの人達もとても驚いていました(笑)。

出逢い運があったということですね。物件って、出逢いですから。ところでお部屋のインテリアはほとんど祐布子さんが担っているのでしょうか?

祐布子さん)インテリアというほどでもないのですが、あるものを持ってきたという感じで、事務所や前の家にあったものを一緒に選んで置いていった感じですね。

物を選ぶうえでの基準はありますか?

祐布子さん)あまりうまく言葉にできないのですが、例えば事務所には合うけど自宅には合わないものがあったりすると思うんです。なので、その空間の雰囲気に似合うものを探して選んでいると思います。小さいものから全てその基準で選んでいるのかな。今まで使っていたものは、引っ越したこの空間にもしっくり馴染んでいて、特にかわった事は無かったんですが。

素材のヴァリエーションが多いのに、全体としては落ち着いたトーンでまとまってますね。

祐布子さん)そうなんです。本当は色を組み合わせたりするのが好きなので、今後はお部屋にも色を取り入れたいと思っているんです。

ところでこちらではお仕事も子育てもされているんですよね?子育てをしている気配が無いのですが(笑)?

祐布子さん)作業の節々で片付けるようにしています。

江口さん)ベビー用品はとにかく種類があるので、普通に必要と思われているベビーベッドも布団で一緒に寝ればいいかなとか、ベビーバスもお風呂も一緒に入ればいいかなとか、本当に必要か買う前に一度考えていますね。椅子は探したけど気にいったものが見つからず、プロダクトデザイナーの白鳥浩子さんと一緒に作りました。

いいですね、この椅子。

江口さん)安い材料で作ったのですが、成長したら脚を切っていけばいいやって思って。droog designにそういうのがあって。

祐布子さんのブログ「funny up」を拝見しましたが、お料理の写真もそうだし、暮らしのなかのちょっとしたシーンが本当に切り取られていますが、美しく暮らすコツについて教えていただけますか?

祐布子さん)部屋に関しては、こまめに整えるようにしていますね。仕事が終わったら整える、何か作業が終わったら整えるという事は意識していますね。自分の気持ちも整理ができるし。

江口さん)そうですね、彼女は一度にいろいろやっている状況は無いですね。

ちなみにこの家に江口さんが選んだものもあるんですか? あればそれはどんな視点で選んでいるのでしょうか?

江口さん)ありますよ。僕は知り合いから物を買うのが好きです。これは、崔さんと蔵原さんという2人組の陶器作家に作ってもらった器で、こっちは使えるアート作品が定期的に届く「The Thing」という頒布会で届いた陶器なんです。出所が面白いとか作っている人が面白い作品をできるだけ買いますね。

物のストーリーとかルーツを大切にしているということでしょうか?

江口さん)作り手が見えるというか、友達から買うことが多いかも。本当の事を言うと、物を買うという行為にはどんどん興味をなくしつつあるのだけど、物を通じて作り手と知り合って何かをやるという事が好きなのかな。

実際、あまり買い物はしないのですか?

江口さん)そうですね、あまり買わないかもしれません、本以外は(笑)。

ユトレヒトさんの活動は本が切り口ですが、モノ選び同様、人に興味が向いているのを感じます。本を選ぶ時の基準についても教えていただけますか?

江口さん)本を通じて人を紹介するというのが一番のポイントです。また、その良さを一言で言えるというのが実はけっこう大事じゃないかと思っています。どこが面白いのかを表現できることが人に勧める際にもとても有効だと思うので。

続けて江口さん仕事の話になりますが、本を切り口に本当にいろいろな活動をされていますが、たくさんの仕事を同時に進めているのは意識をしてのことでしょうか?

江口さん)僕は、彼女と違っていろいろやっている方が楽です。逆に1つの事をやる事が難しくて。いろんな事を取散らかしてやるのが良いなと思っています。

以前、自由が丘店のIDÉE MARKETに出店して頂いた時も江口さん自ら店番をされてましたよね?

江口さん)そうなんです。スタッフが多くないので(笑)。

そのとき、基本的に何か依頼があったら断らないようにしているとおっしゃってましたよね?

江口さん)そうなんですよね、今でもそうかもしれません。ただ、関係ないと思ってやっているような事が他の事に使えたりすることもあるし、自分で考えることって限りがあると思ってるんです。

断らないでやり続ける事での発見ってありますか?

江口さん)もう3年やっている「THE TOKYO ART BOOK FAIR」というブックフェアも、元はあるスペースが空いているから本にまつわる何か面白い企画をやってくれないかという話があって、単に本屋というのも面白くないから、本を作っている人が参加できるフェアをやろうというところからスタートして、徐々に大きくなっていったんです。

アジア最大のブックフェアというコピーを見ました(笑)。外国人の方もいらっしゃるのですか?

江口さん)多いですよ。今年は欧米人のお客さんが特に多かったかな。アメリカやオランダからの出店者もいましたね。

昨年映画「ハーブ&ドロシー」の上映もあって、最近アートフェアが一般の人たちに人気なようですが、ブックフェアにもそうした流れがあるのでしょうか?

江口さん)それはひとつあると思います。またもうひとつは、自分で作って本を発表するという流れがありますね。自分で作って本を営業しにいくような本屋も減ってきているし、ネットで売ったとしても限られているので、ブックフェアはそういったところが機能しているのかなと思っています。

本の未来がどうなるかというところで、本はどんどん電子化されていく一方で、ブックフェアは盛況だったり、また江口さんのようなブックディレクターという仕事も憧れの職業として注目をされていますが、こうしたここ数年の流れはどこからきているのでしょうか?

江口さん)それは幅さんの功績が大きいですね(笑)。

ブックディレクターと呼ばれている方々の活動も、まだ確立されたばかりの分野ということもあって、それぞれ人によっていろいろなフィールドがあると思うのですが、江口さん固有のフィールドは?

江口さん)江口フィールドはあんまり儲かんないところかな(笑)。まあ何度も言っているかもしれませんが、大きいものを大きくより、パーソナルな人との間でやれる事というのに魅力を感じています。

では、聞き方を変えますが本の未来ってどうなって欲しいですか?

江口さん)音楽ってどうなんですかね?

パッケージは確実にどんどん厳しくなっていると思います。音楽を聴いている人は減っているわけでは無くて、音楽の聴き方がかわったのだと思います。昔だと1人のアーティストのアルバムを買ってじっくり聴いていたと思いますが、今は曲単位をiTunesでダウンロードして摘み聴きしている感じでしょうかね。パッケージも本当に一部のメジャーアーティストが売れているか一部のマイナーな音楽、あとは昔のレコードを忠実に再現して作ったCDをレコード世代の人たちが買っている感じでしょうか。

江口さん)音楽は常に本のちょっと先を進んでいる気がします。いずれにしても表現の受け皿としてのCDとか本という話しじゃないですか、本当は。別に本を出したくて小説を書く訳ではなくて、メディアが変わっていくのはしょうがないと思っていて、今の若い人が表現したい事が本に合えば本として出せば良いし、そうじゃなければブログでも良いわけだし。それは時代に合わして変わっていくだろうなと思っていて。本屋さんというのがコンテンツプロバイダーになっていけばと思っていて、それを間違わなければ良いかなと。良いコンテンツを供給する場所でいるのが良いと思っているかな。

生活を楽しんだり、豊かにするために参考になる本について教えてください。

江口さん)では、最近お気に入りでよく見ている本を紹介しますね。

『IN THE WILDS』Nigel Peake
アイルランド出身の建築家兼イラストレーターの作品集で、家のまわりの自然を描いているのですがその独特な視点がとても素敵な本です。

『Usefulness in Small Things』Kim Colin & Sam Hecht
5ポンド以下の単機能だけど有能なものばかりを集めた写真集。

『100 thing in my room』Misato Ban
ユトレヒトで作った本で、家にある100個のものというテーマで、彼女らしいタッチで描いた作品です。

『Arranging Things:A Rhetoric of Object Placement』Leonard Koren
物の並べ方をイラストで紹介する本。実際には、彼の作品はとても大きいんですけど(笑)。

『Fred Sandback』Fred Sandback
糸で仕切った独特の空間構成が格好良い作品集。男の子が好きな本かな。

『A way of life』Kettle’s Yard
ケンブリッジにある元テートのキュレーターでアートコレクターの自宅を紹介した本。暮らしの中にアートがある魅力ある空間をおさめた作品。

最後に、これから家の中で手を加えていきたいところはありますか?

祐布子さん)飾ることかな。最近、ベッドルームの壁を主に知り合いの作品で飾ったんです。今まであまり飾るという事をしてこなかったので、楽しかったですね。これから気分でいろいろ飾れる場所がもう少し増えると良いなと思っています。あとは庭に埋めた種の成長を見守っていくのが楽しみですね。子育てがどうしても中心なので、庭いじりは子育てと仕事の合間に時間を見つけてやっています。

終始、にこやかにインタビューに答えていただいたお二人。ミトちゃんの笑い声も絶えず、たびたび話題がそちらに脱線してしまうこともあったり、寝顔に癒されたり。お部屋全体が幸せなオーラに包まれた本当に素敵な空間でした。今後も様々な方面で活躍するお二人が楽しみです。

Interview: Eriko Kawabuchi (IDÉE), Tadatomo Oshima (IDÉE), Photo: Osamu Mase

山本 祐布子
1977年生まれ。東京出身。京都精華大学テキスタイルデザイン課卒業。切り絵、ドローイングを用いた雑誌や広告のイラストレーションのほか、プロダクトデザインなども手がける。
http://yukoyamamoto.jp
江口 宏志
1972年生まれ。表参道でギャラリーの併設されたブックショップ「UTRECHT/NOWIDeA」を運営する。「THE TOKYO ART BOOK FAIR」共同ディレクター。
http://utrecht.jp
http://zinesmate.org

写真:間瀬 修

1976年 愛知県生まれ
1997年 名古屋造形芸術短期大学卒業
1998年 カメラマンアシスタントとして色々な現場を経験する
2000年 フリーランスのフォトグラファーとして独立、人も物も料理も色々撮る

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